精密和訳 Body Paint – Arctic Monkeys
写真フォルダの中に、自分が楽しそうな顔で写っている写真を見つける。それはあなたの人生という旅の記録であり、消えない過去であり、ボディーペイントです。
目次
どんな曲?

2022年にリリースされた、イギリスのバンド Arctic Monkeys の7thアルバム “The Car” の5曲目に収録されている曲。シングルカット曲でもあります。
内容サマリ – こんな内容が歌われてます
- 10代の衝撃的なデビューから、これまで音楽シーンを引っ張ってきたアレックス・ターナー
- 曲を作ってアルバムをリリースして、ライブツアーをしたりインタビューを受け・・・
- 過去を振り返ると、昔の作品や映像はまるで、ボディーペイント。自分自身のミュージシャンとしての旅の記憶
- 落とすことのできないボディーペイントの跡は、身体中に残り続けている
曲はこちら – 聴きながら和訳を読もう
和訳してみた – 日本語訳はこちら
Body Paint – Arctic Monkeys
The Car (2022)
注釈 I.
- [名] deception: (誰かを)だますこと,騙されること,欺瞞.
- [名] subterfuge: deceit used in order to achieve one’s goal = 目的を達成するために使うペテン・策略. = ごまかし,言い逃れ.
- [名] quite the A: (描写を込めて)まさにA(皮肉をこめて).
- [諺] you’ve made your bed, now you lie in it: said to someone who must accept the unpleasant results of something they have done = 自分の行動が、望ましくない結果を引き起こし、それを自分で受け入れなければならない人に使う. = 自業自得.
- [名] tanning booth: 日焼けマシン.
- [形] predictable: 予測がつく.(人の行動などの)先が読めてしまう(退屈さを暗示).
注釈 II.
- [動] beat: 連打する, カチカチ音がする.
- [形] weak: 弱い.weak in the knees = 恐怖で足がすくむ,ガクガクする.
- [句] There is something up with A : Aに何かが起きている.
- [動] poke: 突っ込む.
- [形] predictable: 予測がつく.(人の行動などの)先が読めてしまう(退屈さを暗示).
注釈 III.
- [名] cover shot: a wide-angle photographic shot including a whole scene = 全体が映る広角の写真撮影[1]のこと.
- [名] trace: 形跡,痕跡.
- [名] costume: 衣装.
- [名] writing tool: 書くための道具.ここでは創作活動の肥やしになるもの、とした.
注釈 IV.
- [形] predictable: 予測がつく.(人の行動などの)先が読めてしまう(退屈さを暗示).
解釈してみた – どういうこと?
- 過去の自分と今の自分。観衆が思う自分と本当の自分。だますことが目的ではないけれど、音楽市場でのミュージシャンとしてキャラクターを演じている ( For a master of deception and subterfuge, you’ve made yourself quite the bed to lie in. )
- これまで色々なコスチュームを着て、創作活動をしてきた。(I’m keeping on my costume, and I’m calling it a writing tool. )
- Tanning Booth は Last Shadow Puppets の PVで日焼けしていた頃の象徴
- Mirrorball は I Bet You Look Good On The Dance Floor の象徴
- 直接的にコスチュームを着たことも。Fluorescent Adolescent.
- その頃を見ると涙が出そうになる。(I feel the tears are coming on)その時に何を考えていたかわかるから。(So Predictable, I know what you’re thinking. )
映画や文学と同様に音楽もまた表現の一つであり、必ずしも「嫌なことがあっても前を向いて頑張ろう」みたいなメッセージ性のある人間讃歌とか、「恋におちた時にこんな気持ちになったよ」みたいな共感できるものである必要はないと思います。松尾芭蕉の「古池や蛙飛びこむ水の音」のように、ただ自分が見た一瞬を切り取って上手に表現して、なんかいいよね、と思えるものはたくさんあります。Alex の作詞は後者に近いと思います。
Body Paintが収録されているこのアルバム The Car は、2006年の Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not から時を経て、Arctic Monkeys にとって7枚目のリリース。15年以上のミュージシャンとしての旅路の中にあったのは、変化。髪型が変わり、服装が変わり、音楽性が次々と変化しました。
しかし、創作活動への姿勢は昔のまま。彼らが今やりたい音楽をやる姿勢を貫いていますが、昔の曲のほうがよかったと思うファンも多いのでしょう。
- I Bet You Look Good On The Dance Floor のライブでの有名なセリフ引用 “Don’t believe the hype” (= 誇大広告を信じるな。当時Arctic Monkeysが次世代のスターとしてメディアに過剰に取り上げられていたため)
- EP Who The Fuck Are Arctic Monkeys での “Don’t care if it’s marketing suicidal, We won’t crack or compromise, Your derisory divides will never unhinge us” (= (音楽市場での)マーケティング的に自殺行為でも、おれたちは折れて妥協したりしない、その取るに足らない対立に乱されたりしない)
この曲はそんなAlexが自身の音楽家としての旅をふりかえり、懐かしんでいる曲だと感じました。過去の作品や映像は過去におきた事実であり、それが今の自分を形成していて、その跡はBody Paintのように自分の体にくっついているみたいに。
Body Paint – 記号の意味、左寄せの意味

- シングルの表紙にはベン図のような2つの円が描かれています。片方が曲中の “you” 、もう片方が “I”。つまり他人から見たロックスターとしての自分と、本当の自分を表しているのではないかと解釈しました。
- 時間軸は左から右に流れます(数直線のイメージ)。左の円は過去の自分、右の円は現在の自分。例えば、曲をリリースした後は、観客目線では曲を書いている頃の自分(左の円)を見ているが、当の自分はもう新しいコスチュームを着て新しい音楽を作り始めている(右の円)。
- 自分は常に変化しているので、重なる部分もあるし、重ならない部分もある。
- 左側の重ならない部分:観客が見ている部分。ここは過去の自分であるが今の自分ではない Alex。Body Paintの部分。
- 重なっている部分:観客が知っていて、今の自分にも存在するAlex。ここも時期にBody Paintに変わる。
- 右側の重ならない部分:観客がまだ誰も見ていない、Alex。
- その証拠に、”BODY PAINT”が中央寄せでなく左寄せになっている
You’ve made your bed, now you lie in it. – 自業自得だ
#1 – 1-2行目
- “You’ve made your bed, now you lie in it” はidiom。自業自得の意味。
- 自分が今までしてきた欺瞞やごまかしが望ましくない結果を招いており、自業自得であるという意味。
Time traveling through the tanning booth – 日焼けマシンでタイムトラベル
#1 – 3-4行目
Do your time travelin’ through the tannin’ booth日焼けマシンの中でタイムトラベル
So you don’t let the sun catch you cryin’お日様に泣いてるところを見られないように
- PVの中にも、まるでタイムマシンのような近未来的な日焼けマシンの映像が出てきます。
- 太陽光で日焼けするより、日焼けマシンで日焼けしたほうが時間がかからず、時間をジャンプした(=タイムトラベル)と解釈しました。
- 日焼けしたAlex Turnerが見られるのは、Miles Kane と The Last Shadow Puppets として2枚目のアルバムを出した、2017年ごろ。
I’m watching your every move – 一挙手一投足
#3 – 1行目
I’m watching your every moveきみの動きのひとつひとつを見ながら
I feel the tears are comin’ on涙が込み上げてくるのを感じる
- この曲は自分に語りかけている曲として解釈しているため、IもYouも自分と解釈した。
- ここでは、Alex が自宅のリビングで自分が出ている昔の映像作品やインタビューを見ながら懐かしくなっている姿を想像しました。
I’m keeping on my costume – Alexの変遷
#3 – 7行目
And I’m keepin’ on my costume (keeping on)僕は衣装を着たまんま
I’m callin’ it a writin’ tool芸の肥やしだって言ってさ
- アルバムを出すたびに着ている服や髪型が変わっている Arctic Monkeys。
- それぞれその時期にインスパイアを受けた源流があるように見受けられます。それを創作のネタにしているのでしょう。以下イメージ
- 2006 – 2007:イギリスの少年期。アルバム1-2枚目
- 2009:長髪期。アルバム3枚目
- 2011-2015:リーゼント、ロックン・ロール、バイク。アルバム4-5枚目
- 2017:宇宙。アルバム6枚目
- 2022:今作
有名人としての自分、本当の自分
#3 – 9行目
And if you’re thinkin’ of me, I’m probably thinkin’ of youきみが僕のことを考えてる時、僕もきみのことを考えてるよ
- この曲は自分に語りかけている曲として解釈しているため、IもYouも自分と解釈した。
- ステージに上がっている時は家でリラックスしている自分を想像しているし、家でくつろいでいる時の自分はステージに上がった時の自分のことを考えていると解釈しました。
精読してみた – 解釈の根拠
英語的な表現や文法事項のうち、面白いポイントを紹介します。
So you don’t let the sun catch you crying. – So that構文
#1 – 4行目
Do your time travelin’ through the tannin’ booth日焼けマシンの中でタイムトラベル
So you don’t let the sun catch you cryin’お日様に泣いてるところを見られないように
- S1 + V1 so (that) S2 + V2 = S2 + V2 するために、S1 + V1 する。
- 「太陽に泣いているところをみられないように、日焼けマシンの中でタイムトラベルする」の意。
It’s as if there’s somethin’ up with the wirin’ – as if = まるで
#2 – 2行目
- As if ~ = まるで~のように。仮定法。
- 「まるで配線がおかしくなったみたいに、歯がカチカチなって、ヒザがガクガクする」の意。
It doesn’t have to mean ~ – 必ずしも〜ではない
#2 – 4行目
Don’t have to mean that you’ve gone into hidin’それで隠れられてる、ってことにはならないよ
- “It doesn’t have to mean” = 必ずしも~を意味するものではない。=絶対~ってわけじゃないよ。くらいの意味です。
おわりに
インターネット上には、彼女に浮気された男の気持ちを歌詞にしている解釈もあったのですが(むしろこっちがバズってるっぽい)、アルバムを通した主張にあう方の解釈(彼らの創作活動における考えや気持ちを表現したアルバム)をしました。
Alexが書く歌詞は叙述的で、he, she の代名詞でストーリーを展開されます。しかし歌詞の後半では I, you に変わっていたり、アルバムで Heで歌われている部分はライブでは I で歌われたりしていて、「ああ、自分の気持ちだったのね」とわかる場合があります。
Body Paint は、You と I でストーリーが構成されていますが、she, herへの変化が見られるライブ映像を見つけられなかったため、男女間の話ではなく、二人の自分の対比(過去の自分と今の自分、あるいは有名人としての自分と本当の自分)と解釈しました。
- There’d Better Be A Mirrorballの記事はこちらから
参考
- Merriam Webmaster – Cover shot
- Youtube – Arctic Monkeys on the new album, The Car
- Youtube – Arctic Monkeys – The Car track by track | X-Posure | Radio X
- Oxford Dictionary of English
- ウィズダム英和辞書