精密和訳 There’d Better Be A Mirrorball – Arctic Monkeys
そこには、ミラーボールがないとね。ミラーボールとは、輝いている部分のメタファーなのでしょうか?あなたにとって、そこにあって欲しいモノ、なければ困るモノはなんでしょうか。それがきっとあなたにとってのミラーボールです。
目次
どんな曲なの?
2022年にリリースされた、イギリスのバンド Arctic Monkeys の7thアルバム “The Car” の1曲目に収録されている曲。完成度の高いイントロが50秒ほど続くところに、アルバムへの強いこだわりを感じます。こんなに長いイントロは A Certain Romance 以来じゃないかな。 アルバムは2021年の夏くらいから着手し、2022年の初頭には完成してたみたいです。早い。
内容のサマリー – こんな内容の曲です!
パッと聞くと恋人との別れ際の曲に聞こえました。よくよく歌詞を聴くと、バンドとして曲のスタイルが変わり離れていくファンについてのお別れの曲と捉える方がしっくりきそう…
詩としての完成度が高い分、和訳することはあまり意味をなさない気がしますがこの雰囲気を感じるだけで十分価値がある曲です。
- インターネットで楽曲が有名になり、デビューした瞬間から人気が爆発したバンド。
- 時は流れ、バンドが歩みを進めるにつれて、あの頃の曲とは全く違うものを書くようになった。
- あの頃のファンは、あの頃の曲が好きなんだろうけど、ミラーボールはあるよね?
曲はこちら – 再生しながら和訳へ!
曲と映像の調和が、かっこいい。映像は Alex Turner 本人が監督しているそうです[1]。
“Well, sometimes it feels like the record is trying to be a film or something, but it sort of turning back off and deciding it’s a just a record.” – Alex Turner[2]
歌詞の和訳と解釈
歌詞対訳 – 和訳
There’d Better Be A Mirrorball – Arctic Monkeys
The Car (2022)
#1
Don’t get emotional1, that ain’t like you感情的になるな、らしくない
Yesterday’s still leaking through the roof昨日という日が天井から漏れ出してくる
That’s nothing newいつものことだけど
I know I promised this is what I wouldn’t do こんなことしないって約束したのはわかってるけど
Somehow giving it the old romantic foolおなじみのロマンチックなバカになったほうが
Seems to better suit the moodムードにあうかなってね
注釈 I.
- [形] emotional = 感情的.例: an emotional speech = 「感情のこもった演説」という使用も可能なため,良いニュアンスでも使用されます.
#2
So if you wanna walk1 me to the carだからもしクルマまで見送ってくれるというなら
You oughta know I’ll have a heavy heart僕の気が重くなるのは知ってるはずだよね
So can we please be absolutely sureだから確信にしたいんだ
That there’s a mirrorball?そこにはミラーボールがあるって
注釈 II.
- [動] walk (someone) : 歩いて送る
#3
You’re getting cynical1 and that won’t do皮肉な気持ちになってるけど、イミないよ
I’d throw the rose tint2 back on the exploded view昔のいい思い出を懐かしむだろう
Darling, if I were youもしきみだったならね
And how’s that insatiable3 appetite4?あの底なしの欲望はどうだ?
For the moment when you look them in the eyesこのひと時、彼らの目をまっすぐみて
And say, “Baby, it’s been nice”そして言う「楽しかったよ」って
注釈 III.
- [形] cynical: 皮肉な.
- [名] rose tint: バラ色
- [形] insatiable: impossible to satisfy = 満たすことのできない
- [名] appetite: 食欲,欲望,欲求.
#4
So do you wanna walk me to the car?クルマまで見送ってくれよ
I’m sure to have a heavy heartどうせ気が重くなるからさ
So can we please be absolutely sureだから確信にしたいんだ
That there’s a mirrorball for me?そこにはミラーボールがあるって、オレのための
La, ohhラララ
Oh, there’d better be a mirrorball for meミラーボールがあってくれなきゃさ
解釈してみた – 結局どういうこと?
Don’t get emotional, that ain’t like you は自分自身への問いかけだと本人が語っています[3]。過去の作品に熱狂したファンが、新作に対して納得がいかない状態に対して、「感情的ならなくていい、やりたい音楽の方向はこっちだろ?」と自分に語りかけているのかな。 Yesterday’s still leaking through the roof の、Yesterday = バンドがこれまで歩んだ過去。そして、アルバムを出すたびいつも同じ状況(nothing new)になる。romantic foolをもう一度やってみる=また曲を書いてファンに語りかけるととらえました。
If you wanna walk me to the car の The car = 今作、でしょう!The carまでファンが見送ってくれる。乗りこんでくれないだろうから、気が重くなる。だから、”Can we please be absolutely sure that there’s a mirrorball?” ミラーボールがあるって、確信できるよね?と聞いてしまう。
You’re getting cynical, but that won’t do = (ここまで語ったみたいに)シニカルになっても、意味がない。もし自分がファンの一人だったなら、昔の良かった曲を思い出すだろう。あの頃の、自分たちの目をまっすぐみていた頃の、熱狂はなんだったんだろう。きっと「あの頃は楽しかったよ」という感じなのだろう。
最後は There’d better be a mirrorball for me に変化している。Mirrorball = 輝いている部分 があって欲しいというのは、自分たちの願望だったわけだ。
- やりたい音楽をやることで、昔から応援してくれるファンの中には、昔の方がよかったって思う人も多いよね。新しいアルバムを出すたびにそう感じることがある。もうやらないって決めてたんだけど、またこうやって自分の気持ちを歌にして伝えてみるほうがいいかなって、思ったんだ
- きっとThe carも好きになってくれない人もいると思うと気が重くなる。けどさ、輝いている部分もあるよね?
- こんな風にシニカルになりすぎても意味ないか。昔のファンは、昔の曲を思い出して、あの頃の熱狂を思い出して、「楽しかったなぁ」と言うんだ。
- きっとThe carも好きになってくれない人もいると思うと気が重くなる。輝いている部分がないと困るんだ、自分自身のために。
精読してみた – ワンポイント英語講座!
英語的な表現や文法事項のうち、面白いポイントを紹介します。
There’d better – had better = したほうがよい
曲のタイトル
There’d better be a mirrorballミラーボールがなくちゃ
- There’d better be a mirrorball = There had better be a mirrorball.’d がくると、had, would, should, could, did…色々な可能性がありますが、ここは had betterでしょう。
- I’d better do something = it is advisable to do it. If I don’t do it, there will be a problem or danger.[4]
- Shouldよりは強い意味で、「somethingをしなかったら、問題や危険がおきる」ことを暗示しています
- ここでは、「Mirrorballがなければ、とっても困る」という意味ととらえました。
- Shouldが一般的な状況と特定の状況の両方に使えるのに対し、had betterは特定の状況にしか使用されません[4]
- 「It’s late. You’d better go. 」とは言えても、「You’re always at home. You’d better go out.」とは言えない。
- 前者が「今」という特定の状況に対して会話しているのに対し、後者は「いつも」という一般的な状況を話しているため
- shouldはどちらも使える
nothing new – 後置修飾
#1 – 3行目
That’s nothing newいつものことだけど
- 日本語の場合は形容詞は名詞の前にきますが、英語はどっちのパターンもあります。
- It is a good song = 前パターン、 There is only one left = 後パターン。
- …thingの場合は後ろから修飾されることが多く、something hot to drink = 暖かい飲み物,nothing special = すごくない、と言えます。
- That’s nothing new = 新しいことではない = いつものことだけど、としました。
this – 次の事柄を指すthis
#1 – 3, 4, 5行目
I know I promised this is what I wouldn’t do こんなことしないって約束したのはわかってるけど
Somehow giving it the old romantic foolおなじみのロマンチックなバカになったほうが
Seems to better suit the moodムードにあうかなってね
- 会話中の this =「これ」の意味。文中に来るthisは、次の内容を示すことがあります。
- Today I’m gonna talk about this: xxx = 今日はxxxについて話します。
- Last night, I met this guy. he was wearing a stupid glasses… = 昨晩男に会ったんだけど、そいつ変なメガネかけててさ…
- I know I promised this is what I would’t do = this はやらないと約束したのを覚えている。ここでのthis = giving it the old romantic foolのことでしょう。
- 「ロマンチックなバカはやらないって約束したのはわかってるけど、やったほうがムードにあう」というふうに3文がつながっています。
old – おなじみの
#1 – 4行目
Somehow giving it the old romantic foolおなじみのロマンチックなバカになったほうが
- old = 昔からの、お馴染みの、よく知っている
- Alex が romantic fool なことはお馴染みなのでしょう。笑
walk me to the car – クルマまで送る
#2 – 1, 2行目
So if you wanna walk me to the carだからもしクルマまで見送ってくれるというなら
You oughta know I’ll have a heavy heart僕の気が重くなるのは知ってるはずだよね
- 他動詞の walk です。歩いて同行する、歩いて案内するの意味。
- 「The car まで一緒に歩いてくれるなら」はおそらくダブルミーニングでしょう。
- 恋人との別れ際、クルマまで送ってもらって気が重くなる
- アルバムを聴く人が、(Arctic Monkeysの過去の楽曲の方が好きでそこにとどまるので)新しいアルバムのThe carまでAlexを見送る
ought to – するべきだ
#2 – 2行目
You oughta know I’ll have a heavy heart僕の気が重くなるのは知ってるはずだよね
- shouldとほぼ一緒。ought to の方が古風に、義務的に聞こえるらしい。
- 「一口食べてみて」を You should try. と言ったりするのでここでの「するべきだ」には注意。日本語の「べき」感より広い範囲で使われる。
- heavy heart = 重い心。日本語でも「気が重い」と言いますね。
that won’t do – それで十分だ
#3 – 1行目
You’re getting cynical and that won’t do皮肉な気持ちになってるけど、イミないよ
- It will do. = それで十分だ、それで大丈夫だ.It will work と同じニュアンスで使われます。否定系はもちろん It won’t do.
- 例: Does the time work for you? = その時間で都合つきますか?(会議の時間を提案する時。その時間で機能するか?=その時間会議できますか?)
rose-tint – バラ色
#3 – 2, 3行目
I’d throw the rose tint2 back on the exploded view昔のいい思い出を懐かしむだろう
Darling, if I were youもしきみだったならね
- rose-tint = バラ色がかった淡い色合いのこと。元々は、rose-tint glassed = バラ色のサングラスを通して見たものごと。楽観的,物事のいい部分だけを見る、という意味で使われるそうです。[5]
- throw back = 投げ返す、(転じて)過去を懐かしむ。
- [名] throwback = 懐かしいくなるもの、の意味で使用されます。
- exploded view = 爆発図。(こんなやつです)
- 過去から現在に至るまでの作品やライブの集合体として今のバンドがある。the exploded view = 過去の作品などを並べてみた想像上の図、と解釈しました。
- 「爆発図の上でバラ色を思い出す」=「バンドの活動のいい部分を思い出して、懐かしくなる」と解釈しました。
Darling, if I were you – 仮定法
#3 – 2, 3行目
I’d throw the rose tint2 back on the exploded view昔のいい思い出を懐かしむだろう
Darling, if I were youもしきみだったならね
- If I were you, I would throw… ここは仮定法です。
- 「もし僕がキミだったら、バンドの活動のいい部分を思い出して、懐かしい気持ちになるだろう。」
look them in the eyes – まっすぐ目をみる
#3: 5行目
For the moment when you look them in the eyesこのひと時、彼らの目をまっすぐみて
And say, “Baby, it’s been nice”そして言う「楽しかったよ」って
- look (someone) in the eye(s) = 目をまっすぐ見る
- 他にも、punch you in the face = 顔面を殴る のような形もあります。
It’s been nice – 現在完了
#3: 5行目
For the moment when you look them in the eyesこのひと時、彼らの目をまっすぐみて
And say, “Baby, it’s been nice”そして言う「楽しかったよ」って
- おそらく It was nice. より It’s been nice. の方が別れ際っぽく聞こえるのでしょう。
- It was nice. が単純に「過去の事実として楽しかった」ことを述べているのに対して、It’s been nice. は、「過去から(出会ってから)これまで楽しかった」ことを述べています。
おわりに
感想
難しすぎる。Arctic Monkeysの曲って、曲調と歌詞が合ってないと感じる(この曲ってこんな意味だったんだ、の驚きが得てして大きい)のですが、今回もそれでした。曲の完成度は相変わらず高いです。完成度高い曲に、人間の不完全なというか、未熟で人間らしい感情の歌詞が載っているところがこのバンドの大きな魅力と言えると思います。
解釈の余地が大きい曲ですので、この解釈はあくまで私の解釈として受け止めてください。
あなたなりの解釈、お待ちしております!
参考
- NME Japan – “アークティック・モンキーズ、来たる新作より新曲“There’d Better Be A Mirrorball”が公開” (2023/6/17閲覧)
- Youtube – Arctic Monkeys – The Car track by track | X-Posure | Radio X
- Youtube – Arctic Monkeys on the new album, The Car
- Raymond Murphy – English Grammar In Use fifth edition. pp.70 ISBN 978-1-108-45765-1
- Collins Dictionary – rose-tinted (2023/6/17閲覧)
- Oxford Dictionary of English
- ウィズダム英和辞書
めちゃくちゃわかりやすかったです。次のArctic monkeysの更新も楽しみ位しています。