精密和訳 Riot Van (demo) – Arctic Monkeys
前回に続き、今回はリリース前のデモ版の曲の歌詞解説をやります。(スタジオアルバム版の解説はこちら)演奏や録音はスタジオ版の方が洗練されているのですが、デモ版の方でもそのエッセンスを感じることができます。歌詞はさらに過激な内容になっていますが、よりイギリスのリアルを感じることができます。
目次
どんな曲?
イギリスのバンド Arctic Monkeys のデモ曲。Beneath the Boardwalk というデモアルバムの中の1曲。
スタジオバージョンは同じタイトルで、1stアルバム “Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not” の7曲目に収録されています。
内容サマリ – こんな内容が歌われてます
イギリスの治安の良くない街の夜。悪ガキ集団の話。その中の一人の下っ端ヤンキーに焦点が当てられています。
- 夜の街で悪さをして、警察のバンに連行される
- 他の仲間は、マリファナを吸ったり、盗みを働いたり。
- 下っ端ヤンキーが壊れかけの車を盗んでくるが、事故
- そして…
曲はこちら – 聴きながら和訳を読もう
和訳してみた – 日本語訳はこちら
Riot Van – Arctic Monkeys
Demo ver.
注釈 I.
- [名] riot van: 暴動を抑えるための警察車両.
- [名] copper: (俗) サツ,おまわり.
- [名] chin: 下あご.
注釈 II.
- [名] bong: マリファナのひと吸い.
- [句] on one’s own: ひとりきり.
注釈 III.
- [名] funny cigarettes: マリファナたばこ.
注釈 IV.
- [動] pinch: 盗む.
注釈 V.
- [動] roll up: to arrive at a particular place or event, usually late = 遅れながら到着する.
- [名] fire brigade: 消防隊.
- [名] arrest: 逮捕,逮捕者.
注釈 VI.
- [名] funny cigarettes: マリファナたばこ.
解釈してみた – 結局どういうこと?
2006年にリリースのスタジオアルバム Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not は、アルバムを通して治安の悪い夜の街のシーンが多く描かれています。このころ彼らは、シェフィールド北部のNeepsend という街のリハーサルスタジオに出入りしていたらしい。そこで怖い人たちをたくさん見てきたとインタビューで語っています。[1]
Demoバージョンの歌詞は、スタジオアルバムより過激です。最後には死人がでてしまいました。
- 夜の街で悪さをして、警察のバンに連行される
- 他の仲間は、マリファナを吸ったり、盗みを働いたり。
- 下っ端ヤンキーが壊れかけの車を盗んでくるが、事故
- 結果、皆亡くなってしまった
We got thrown – 話し手は悪ガキの一味?
#1 – 1行目
We got thrown in a riot vanバンに放り込まれて
- 一人称視点で語られています。話し手は悪ガキ中の1人でした。(主語 he と言っているようにも聞こえる…自信なし)
- 警察に捕まってしまうところから曲が始まります。
悪ガキたちに置いていかれる悪ガキ
#2
Smoked a bong last night and stole somebody’s telephone昨日の夜、マリファナを吸って 誰かの携帯を盗んだ
He thinks it’s all alright but they’ve left him on his own, on his own悪いことだと思ってないみたいだけど そいつを置いていった
- 置いていかれたのは、悪すぎるからなのか、バカすぎるからなのか。
- マリファナを吸ったり、人の電話を盗むことを悪いと思っていない模様。
- 最初の一文は主語が省略されていますが、後段で he thinks… と続くことから、主語は they の中の一人。
下っ端のヤンキーだった
#3
But baby stop calling over and over yeah電話してくるなよ 何度も何度もさ
And give me some funny cigarettes, And do what they told you, yeahマリファナたばこをくれよ そして言われたことだけやれよ
- おそらく置いていかれたのは、下っ端的存在の彼だったのでしょう。
- 置いていかれた彼は、何度も電話をかけるものの、マリファナをもってこいだの、言われたことをやれだのと言われてしまいました。
- イギリスのヤンキー社会にもしっかりとヒエラルキーが存在しているんですね…
下っ端ヤンキーの末路 1 – 車を盗まされる
#4
Pinched a car with one headlight, And lost control, the passengers were screaming片方のヘッドライトが壊れている車を盗んだ 制御できなくなって、乗っているやつらが叫ぶ
Made him shut his eyes real tight, And think of you, and hope that he was dreaming目をぎゅっとつむって キミのこと考えながら、「ああ、夢だったらな」
- 前段の「言われたことをやれ」は、車を盗むことでした。
- 主語が省略されていますが、主体は置いていかれた彼でしょう。
- 壊れかけの車に仲間を乗せて走り出すも、制御できず走馬灯が駆け巡ります。
- 15の夜っぽい。笑
下っ端ヤンキーの末路 2 – 事故死
#5
Then up rolled the riot van, And called the fire brigade機動隊のバンがやっと到着 そして消防隊を呼んだ
But it was already too late, And there was no arrests to makeでももう遅すぎた そこには捕まえる人はいない
- 事故現場に警察車両が駆けつけて、消防隊を呼びます。
- しかし、そこに逮捕するべき人はいませんでした。すでに亡くなっていたからです。
- 歌詞が過激ですね…。
精読してみた – 解釈の根拠 & 1Point 英語講座!
英語的な表現や文法事項のうち、面白いポイントを紹介します。
Riot van rolls up. – 倒置
#5 – 1行目
Then up rolled the riot van機動隊のバンがやっと到着
- Then the riot van rolls up. の意味。
- 強調のために、S+V が V+S の順になることがあります。→ “I’m tired.” “So am I.”
- The Beatles の名曲 “Here comes the sun”も倒置ですね。普通なら、”The sun comes here.” (Hereは副詞。副詞は主語にならない。)
主語の省略について
#4
Pinched a car with one headlight, And lost control, the passengers were screaming片方のヘッドライトが壊れている車を盗んだ 制御できなくなって、乗っているやつらが叫ぶ
Made him shut his eyes real tight, And think of you, and hope that he was dreaming目をぎゅっとつむって キミのこと考えながら、「ああ、夢だったらな」
- 「英語は主語を省略しない」といいますがそんなことはありません。
- 曲中や、新聞など限られた単語数で示す必要がある場合には、ごく普通に省略されます。
- 逆にいうと省略された主語は自明、ということです。自明でない場合は省略されません。
- “pinched a car with one headlight” “lost control” の主語は he。
- screamingの主語は自明ではないので、the passengers と明言してくれています。
- “made him shut his eyes real tight”の主語は it。この状況。
- “think of you” “hope that he was dreaming” の主語はhe。
おわりに
感想
歌詞は過激ですが、日本にもこのような状況も曲も存在している気がします。怖いですが、イギリスのリアルな空気感を感じられる曲でした。
音楽がかっこいいのがよい。歌詞が怖い。これぞイギリス。笑
スタジオバージョンの解説記事はこちら。
参考
- RadioX – Is Arctic Monkeys’ When The Sun Goes Down their darkest track? (2023/7/10閲覧)
- Oxford Dictionary of English
- ウィズダム英和辞書